コラム

(14)Philanthropy Can Sometimes Come with a Price Too High to Pay

 マーティ・キーナート


Sackler-サックラー家はニューヨークのユダヤ人移民の家族で、有名な製薬会社のPurdue Phama-パーデュ・ファーマ社の創業者一家です。サックラー家の純資産総額は、推定130億ドル(約1兆4,500億円)以上で、一家はその莫大な資産を元に芸術や教育、文化に多額の寄附を行ってきたので知られています。


サックラー家の名前はあまりにも有名で、全世界のあらゆるところでその名前を目にすることができます。芸術、文化、科学などのビルにその名前はきざまれており、例えば、NYの場合は、the Sackler Institute at Columbia University/コロンビア大学、the Sackler Center for Arts Education at the Guggenheim Museum/グッゲンハイム美術館、the Sackler Wing at the Metropolitan Museum of Art /メトロポリタン美術館、ロンドンの場合はthe Natural History Museum, /大英自然史博物館、Shakespeare’s Globe/シェークスピア劇場、the Royal Botanic Gardens/王立植物園、パリの場合は、the Louvre/ルーブル美術館、など名前を挙げればきりがないほどです。


しかしながら近年、以前はサックラー家からの寄附をありがたく受け取っていた大学や財団は、その寄附を拒否したり、あるいは建物についた彼らの名前を削除しはじめているのです。なぜでしょうか。


このパーデュ・ファーマ社は、その多くの利益を自社が開発したOxyContin-オキシコンチンと呼ばれる中毒性の非常に強いOpiod=オピオイド系鎮痛剤の売上により得ています。この非常に強いオピオイド系鎮痛剤オキシコンチンにより、多くの人が薬物依存症に苦しむ結果となっているのが大きな社会問題となっているのです。多くの州では、すでに人の健康よりも利益を優先しているとし、パーデュ・ファーマ社は次々に訴えられています。現在多数の州裁判所で数百件の訴訟を起こされているPurdue社は、この自社の鎮痛剤が間違いなくアメリカ国内で最も甚大な中毒症状を拡大させていることを知りながら、このオキシコンチンの健康リスクを隠匿し続けていたのです。


米国では、昨年だけで72,000人以上の人が薬の過剰摂取で亡くなっています。またそのうち、少なくとも49,000人以上が鎮痛剤の間違った使用の為に命を落としているのです。中でもオキシコンチンの使用によるものがもっとも多い死因と言われています。もちろん、これは製薬会社であるパーデュ・ファーマ社だけでなく、処方箋を出す医師の問題もありますが、その医師を巻き込んだマーケティングを行ったのもパーデュ・ファーマ社の戦略でした。そのためサックラー家の寄附金は、今や"汚いお金”として見られそしてほとんどの人がそれに関わりたくなくなったのです。このパーデュ・ファーマ社事件は現在も米国の大きな懸念の1つであります。


この事件は私たちにも良い教訓になります。寄附のお金がどこから捻出されているのか、それを受けとる以前に確認するのはとても重要なことなのであります。



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マーティ・キーナート

<プロフィール>

アメリカ ロサンゼルス生。1968年スタンフォード大学卒。1969年慶応大学日本語コース修了。以来滞日40余年、一貫して日米を通じたスポーツビジネスに身をおく。日米両国においてビジネス、プレイヤー双方の実経験から、日米比較や日本の教育システムにさまざまな問題を提起。2004年「東北楽天ゴールデンイーグルス」の初代ゼネラルマネージャー。仙台大学特命副学長/東北大学特任教授などを歴任。   

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