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インタビュー

押谷 仁(おしたに ひとし)
第24回 2011年1月26日更新 桜岡大神宮宮司・仙台工業専門学校 1950年卒業 坂本 壽郎(さかもと じゅろう)

1987年 東北大学医学部卒
           国立仙台病院(現国立病院機構仙台医療センター)研修医・レジデント
1991年 JICA専門家としてザンビアでウイルス学を指導
1995年 アメリカ・テキサス大学 公衆衛生大学院(公衆衛生修士)
1998年  新潟大学医学部 公衆衛生学助手
1999年  新潟大学医学部 公衆衛生学講師
2005年  東北大学大学院医学研究科 微生物学分野教授


新型インフルエンザのニュースが世界へ飛び交う、今。このウィルスに感染した人が国境を越えることで瞬く間に世界中に広がり、このような新しい感染症が広がる危険性はますます増大すると予測されています。東北大学医学系研究科では、このような感染症を現地で研究するためフィリピンに研究拠点を設置し、その対策づくりにも力を尽くしています。その最前線で、自らの命を挺して感染症と闘う押谷仁教授にお話を伺いました。

「開発途上国から感染連鎖にさらされる命を見つめる」

グローバルな視野で捉える「微生物学分野」

 私は微生物学分野の主にウイルス感染症を研究しています。私たちの研究が通常のウイルス学と違うのは、基礎研究よりもむしろ疫学や公衆衛生のように、実際の感染症をいかにコントールするかといったことも対象としているところです。ラボの実験も、実際の患者さんからの検体を扱ってその解析をするのが主になっています。

 具体的には、2008年度から、文部科学省の「新興・再興感染症研究拠点形成プログラム」の一環として、フィリピンで感染症対策と感染症の研究に力を注いでいます。この文科省プロジェクトは、「日本の研究者も積極的に海外で研究しなければ、今後の新興感染症には太刀打ちできない」との考えで始まりました。私たちは月に1度はフィリピンを訪れ、現地で各分野の専門家と共同活動を行っています。

 また、モンゴルやシンガポールで共同研究をしたり、国内では仙台市内の小児科の先生とインフルエンザの研究を進めたりと様々ですね。

 総括すれば、実際に役立つような応用研究をやっていこう、というのが私たちのコンセプトであり、フィールドに根ざした研究活動を主軸に据えています。

フィリピンにおける、新型インフルエンザとの闘い

 私たちが扱う感染症は様々ですが、現在は主にインフルエンザの研究を行っています。新型インフルエンザの被害の拡大は重要課題です。フィリピンでも多くの患者が発生し、死者も出ています。アメリカですら約200名が亡くなっています。

 この対策を立てるための研究活動の一つとして、いま私たちはレイテ島でJICA(国際協力機構)と協力して、妊婦への感染をいかに防ぐかに取り組んでいます。妊婦は重症化しやすいと分かってきたからです。現地の重症化しやすい人たちを取り巻く問題を考えながら、一般の人にも目を向け、感染を防ぐ方策を練るのです。

 実は、こうした対策づくりに最も重要なのは、厳密な研究に基づくデータです。例えば、タミフルといった抗ウイルス薬を、またワクチンがある場合はそれも含めてどう使えば最大の効果が得られるかはデータで判明します。また、重症化する人々の特性が特定されたとき、その人々への感染をどう防ぎ、どんな治療で救命できるかという対策もまた、データ上に立脚して決めていきます。さらには、どのようなデータを収集するか、ウイルス学的・疫学的にどう解析するのかも重要な戦略なのです。

 これをフィリピンで行う意義は大きなものです。というのは、新型インフルエンザは世界中にあっという間に広がりパンデミック(世界的な流行)になる可能性を孕みます。日本国内のみで研究するだけではこのような感染症に対応できません。こうしたことを海外で探る日本の研究者はまだ少ないので、もっと増えて欲しいと思っています。

対策に、「途上国」と「先進国」のギャップ

  このままいくと、新型インフルエンザの被害は開発途上国でより多く起きるでしょう。というのは、今回の新型インフルエンザの症状は通常のインフルエンザとほぼ変わらないものですが、一部の人たちでは非常に重症化します。小さな子どもや妊婦、基礎疾患を持っている人です。途上国には、そういう人たちが圧倒的に多いのが現状だからです。

 にもかかわらず、途上国は医療用物資が揃わず、タミフルなども足りていません。また、先進国はワクチンの開発と接種を重要な対策の一つとしています。途上国にはそのワクチンを生産する能力もほとんどないですし、医療体制も満足に整備ができていません。そういう場面でどう対策を打つかが大きな問題と言えます。



グローバル化だからこそ、ローカルな音楽の個性を

 私自身、東京で音楽を学び、活動していたらという気持ちはあります。刺激のレベルが違いますから。しかし、東京で活動する方々は、生まれ育った日本を考えるよりも、世界に名を馳せたいとの気持の方が強いように感じます。

 しかし、この仙台で音楽活動をしている人たちは、この土地に根ざし、この土地を大切に思いながら音楽をしています。それは泥臭いかもしれませんが、その泥臭さこそが私たちの豊かさの証しです。誰とでもざっくばらんにおしゃべりをし、酒を飲み、笑い合い、そのようにして生きていく人と触れたとき、私は「うーむ、この人、やるな」と感じ、嬉しくなります。

 考えてみますと、東北大学は、他の大学と比べて徒党を組むような団結の意識は薄いようですね。私は、これが逆に本学の強みであると感じます。心のバリアがなく、どこにでも入っていける。どこでも自在に存在できる……これは大変素晴らしいことです。

 現在は、以前作った「鳴砂」と言うオペラを、来年仙台で再演するために、書き直しをしています。曲を進化させる……ダーウィンの進化論みたいだな、などと感じています。私もまた、「進む」なのでしょうか。


パンデミックを引き起こすグローバル社会の課題

 もう一つの大きな問題は、グローバル化した社会の環境です。いちばん直近の新型インフルエンザの発生は1968年、「香港インフルエンザ」と呼ばれるものでした。今回は、全く当時と違うグローバル社会の中で起きているパンデミックなのです。世界のどこかでそういう感染症が発生してしまうと、日本への感染者の流入を避けることは極めて困難です。今回の新型インフルエンザでも一日100人以上の感染が確認されています。世界を見ても10万人以上の感染が確認されており、実際数は100万から200万人以上かもしれません。恐らくこの先6ヶ月から1年の間に、約20億という人たちが感染し、発症する可能性もあります。

 ここで私たちに出来ることとは「いかにして被害を最小限にするか」なのです。今の医学ではこうしたウイルスの新興を止めることは出来ないのです。新型インフルエンザをグローバル社会の中でどう捉えていくかが大きな課題です。

感染症を封じた喜び、そして苦渋

 私がWHO(世界保健機関)の活動に従事していた2003年に、SARS(重症急性呼吸器症候群)が発生しました。私たちはWHOが集積した豊富なデータを解析し、どのように対策を講じれば良いのかを考えました。また、どうすれば一番効果的に被害の拡大を封じ込められるかを試案したのです。そして、最終的には封じ込めに成功しました。そのように感染症をコントロールできたときには、何ともいえぬ大きな充足を感じます。

 一方で、今回の新型インフルエンザの場合は、最初からコントロールできないと認識されています。例えば、日本で毎年冬に流行するインフルエンザもコントロールできない感染症の一つです。ことに、新型インフルエンザは多くの人が免疫を持っていません。それだけに、急速に広がりますし、重症化する人も出てくるでしょう。現在は、喜びを感じる機会よりは、どうしたらいいのだろうと思案する難しさの方が大きいですね。

大切なのは一人ひとりが「想像力」を持つこと

 私たちにとって大切なことは「想像力を持つこと」です。これは感染症に限らぬ話ですが、このグローバル社会の中で病気の被害が集中するのは貧困層の人たちです。それは今後も確実に起こりますし、今回の新型インフルエンザも世界に拡大すればアフリカが大きな被害を出す可能性があります。そうしたグローバルな目で、「どこかでそういう人たちがいるのだ」との想像力を持つことです。

 同時に、自分の身近な場所を想像してください。例えば、この新型ウイルスの場合、大抵の人は比較的症状が軽いので、自分は3、4日寝れば治るだろうとか、特別なことをする必要はないと考える人が多いのです。実際、学生に訊いてもそうですね。しかし、もし自分が感染したら誰かにウイルスをうつし、この誰かがまた拡げる可能性もあります。この感染連鎖の先にはリスクファクターを持つ人がいて、その人が重症化するかもしれません。

 現在流行している新型インフルエンザの発生源は、メキシコか北アメリカの、おそらく「たった一人の人」であろうと考えられています。その一人の人から始まった感染が世界中の数百万人にねずみ算式に拡大したという図式になっています。ですから、私たち一人ひとりの感染を拡大させない努力が社会全体の被害を抑えるために必要になるわけで、それをもたらすのが想像力なのです。

 身近にもグローバルにも被害を受ける誰かがいると考えて、皆が意識を変えなければ、感染症の問題は解決していかないと私は思います。




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