多くの人文社会科学は、究極的には「人間って何だろう?」という素朴な疑問に発する人間追究だと思います。私は不可視の世界との関わりの中に成立する人間の宗教的営みを研究対象としていますが、その手掛かりは文献資料のみならず、私自身のフィールドワークの成果も多用します。
フィールドで出会った多様な人生を送ってきた人々と心が通う関係が成立し、その資料をもとに宗教行動の意味を解き明かせた時が"至福の時"です。
私の問題関心の一つは、人々の「死生観」の把握にあります。しかし死や生をどのように考えるかといった他者の観念は目に見えるわけではありませんし、正面突破で聞いてもなかなか答えてくれません。
その行き詰まりに悩んだ末、私は位牌・墓・遺影といったモノに着目するようになりました。それらのモノを作り、そこへと関わる人々の行動の背後から死生観を探ろうとする発想は、今思えば簡単ですが、試行錯誤の末に至ったものです。