1977年3月 東北大学工学部卒業
1979年9月 ロンドン大学インペリアルカレッジ修士課程修了(Master of Science)
1983年3月 東北大学大学院工学研究科博士課程修了(工学博士)
1983年10月 東北大学高速力学研究所助手
1988年4月~1989年1月 米国パデュー大学客員研究員
1997年6月 東北大学流体科学研究所教授
2012年4月~ 東北大学副理事
◎受賞歴/日本機械学会賞奨励賞(1989) ・日本伝熱学会賞学術賞(1998)・日本機械学会賞論文賞(1999)・日本機械学会熱工学部門 業績賞(2001) ・日本伝熱学会 技術賞(2002)・紫綬褒章(2012春)
熱流体工学の研究に情熱を傾けてきた、東北大学流体科学研究所・圓山重直教授。他の学問分野と融合させて研究領域を拡げることにも、果敢に挑戦し続ける。また、東北大学に流動ダイナミクスの国際研究・教育拠点を形成する、21世紀COEとグローバルCOEの両プロジェクトリーダーとして尽力されてきた。その業績は、日本伝熱学会賞学術賞(1998年)をはじめ多くの受賞歴を数えている。さらに、2012年春には紫綬褒章を受章した。その歩みを支える思いと、東北大学へ寄せる感慨とを伺ってみた。
熱工学の分野の研究に取り組んでいます。基本は、モノを温めたり、冷やしたり、断熱したりして、熱を如何に効率的に伝えるかです。熱工学は機械の製造に貢献しています。例えばICチップの製造では、均一に伝熱をコントロールすることが製品の品質の決め手となります。
これまでの熱工学は、熱を効率的に移動させることが主な目的でしたが、新たな着想で伝熱制御の方法を創生しました。これと異分野研究との融合によって、新たな研究分野を展開しています。
一つは、人間の身体の中を熱がどう伝わるのかを探求しています。それを治療に活かす研究を医学部の先生と行っています。例えば、脳を局所的に冷却すると、てんかん症状が止まるのです。皮膚がんの治療にも急激に皮膚を冷やすことで効果が期待できますが、皮膚の厚さは1mm以下なので正確さが求められます。一方、人体を局所的に温めることで健康を取り戻す研究を、漢方医薬分野の先生と取り組んでいます。
また、自然対流による熱伝達を活かした研究も行っています。海洋物理学の分野での大規模な自然対流に応用しています。簡単に言えば、海にパイプを差し込むと海洋深層水を汲み上げることができるのです。この実験に海洋でトライして、世界で初めてそれを証明しました。海洋深層水には、リン、窒素が多く、プランクトンがよく育つので、将来的には海洋牧場を実現することを目指しています。
研究はとても面白いです。わからないことがわかる醍醐味は何にも代えがたい。東北大学には、ノーベル賞の射程距離におられたり、文化勲章、文化功労賞の栄誉に輝く先生方は数多く、優秀な研究者が揃っています。異分野の先生方と交流することで、研究に弾みがついて新たな領域がどんどん拡がります。
東北大学は学生たちも優秀です。しかも、真面目で一所懸命に勉学に取り組みます。学生たちとあれこれ研究することはすごく楽しいです。
私が東北大学工学部へ入学したのは、1973年です。大学時代で一番思い出深いのは、鳥人間に挑戦したことでしょう。今でこそ、東北大学の学生たちのグループ“ウィンドノーツ”の活躍が注目されてますが、当時は未だ鳥人間コンテストも無かった時代でした。入学まもなくクラスメートの友人と芝生で空を見上げていた時に、「ハンググライダーを作りたいね」と発した言葉から、それは始まりました。
何せ知識も技術も何もなかったですから、当時の学友会航空部の部長だった大内義一先生や野田佳六先生にご指導を受けました。文献や専門書を読んで、見よう見まねで勉強を始めたのです。阿部博之元総長が当時の機械工学科の助教授をされておられ、構造設計についてご相談したのですが、鋭い洞察力の持ち主という印象を受けました。
固定翼の複葉機を作ろうと、設計と並行して材料の購入と調達に取りかかりました。土木作業などのアルバイトで資金作りをしたものの、間に合わない。そこで、材料のメーカーを訪問して、調達の相談をしました。当時は、学生に理解があり、それならと材料を無料提供してくれたり、原価で譲ってくれました。発砲スチロールに至っては、私たちのために生産ライン計画を変更して製造して無償提供してくれました。
蔵王山麓で試験飛行をして改修したりして、青葉山ゴルフ場周辺の急斜面で飛行した時が最後になりました。失速して機体が破損、操縦者は無事でした。このフライトにテレビ局が取材に来たり、機体は藤崎デパートの一階で展示されたりしました。
この鳥人間への挑戦は、企業と交渉したりメディアに対応したり、自分たちには貴重な社会勉強になりました。夜中まで作業や議論をしたメンバーたちとは、今でも良き友人関係が続いています。
東北大学が100周年を迎える際に、この機会に同窓会をもっと盛り立てたいとサポートしてきました。
東北大学の卒業生は、真面目で実行力があり、企業の中でめざましい活躍をされています。群れない、つるまない、一匹狼タイプが多く、人脈に頼らず孤立無援であっても会社の実績づくりに貢献しています。他大学と比べますと、同窓生による人脈ネットワークが弱く、それで活躍の場に広がりが無かったりするのは残念です。もしかして、直面する課題に異業種の方などに相談なされば、別な解決策が見つかる可能性もあるわけです。
現在、萩友会のデータベースを準備しており、在校生と卒業生のネットワークを構築しようとしています。このネットワークでぜひ相互協力や支援の輪が広がっていくと良いと考えています。
幸い、卒業生が集まるホームカミングデーの参加者も多く、同窓生同士や、先輩と後輩のつながりを深めることにも一役かっているのは嬉しい限りです。
最近、福島原発事故を題材にした「小説 FUKUSHIMA」を圓山翠陵というペンネームで出版しました。これは、原発事故の経緯をわかりやすく、読みやすく工夫したもので、執筆に1年をかけました。東京電力などのデータを独自に解析し、状況を大胆な推論を展開しながらメルトダウンの経緯を記述していこうと、小説仕立てにしました。大規模な技術制御のあり方だけでなく、人間ドラマとしても読めるという感想を頂いて嬉しく思っています。