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留学、広がる可能性
2015年度、東北大学が実践する留学プログラムにより400名を超える学生が海外留学をしました。今回は、里見進総長と留学を経験した学生3人で座談会を開催。留学経験を通して見えたこと、広がった視野、今後についてお話しいただきました。「留学を経験した」だけでは終わらない、「未来につなげる」学生の姿、そして東北大学の取り組みを紹介します。
東北大学医学部医学科卒。東北大学医学部教授、臓器移植医療部長、附属病院病院長、東北大学副学長を経て2012年より現職。
●栗原 理聡さん:情報科学研究科修士1年2013年SAP夏パダボーン大学(ドイツ)2週間
2014年SAP春ニューサウスウェールズ大学(オーストラリア)5週間
2014年度前期グローバルリーダー認定
●三浦 萌実さん:文学部4年2013年SAP夏ハノイ貿易大学(ベトナム)3週間
2014年SAP春シェフィールド大学(イギリス)4週間
2015年交換留学パデュー大学(アメリカ)8か月
2015年度前期グローバルリーダー認定
●稲垣 達也さん:工学部3年2014年入学前海外研修カルフォルニア大学リバーサイド校(アメリカ)2週間
2015年SAP春シェフィールド大学(イギリス)4週間
2016年交換留学デンマーク工科大学(デンマーク)※2016年12月現在留学中
※SAP=スタディアブロードプログラム(短期海外研修)初めての留学「変化」への第1歩
- 学生のみなさんは、本学のさまざまな留学プログラムのうち、どのようなプログラムに参加しましたか
栗原 学部2年の夏と冬にスタディアブロードプログラム(以降、SAP)に参加しました。夏に参加したドイツでは、ITマネージメントというテーマで、ITを多くのビジネスに生かしていくのはどうしていけばいいのかということについて、座学と企業訪問をしました。そこでは、日本とドイツの働き方の違いを非常に強く感じました。ドイツはコミュニケーションを大切にしていて、壁がないといいますか、そういう部分がとても印象的でした。日本だと残業することもあると思いますが、ドイツは時間のメリハリがはっきりしていて、日が明るいうちに帰って夜は家族との時間や、自分の時間を非常に大切にしていると思いました。
総長 英語圏に行くのではなく、ドイツに行ったのはどのような理由ですか。
栗原 私自身が情報科学研究科所属で、ITマネージメントに興味があるため選びました。ドイツ語は全く知らないのでコミュニケーションできるのかという不安はありましたが、実際行ってみると英語が通じますし、不安は解消されました。日本人は日本語という母国語を持っていて、ドイツ人はドイツ語という母国語を持っていて、日本人よりもドイツ人のほうが英語でのコミュニケーションがよくできていたのが印象に残りました。
三浦 私も3回海外留学の経験がありますが、1年生のSAPのベトナムが初めての海外で、まず海外を見てみようと思ったのがきっかけでした。自分が全く見たことがない世界でしたし、日本で生活していては見られない文化が見られたことが印象的でした。その中で自分の英語力では追いつけない、コミュニケーションが成り立たないのをすごく痛感し、(語学力をつけるために)次はイギリスに行きました。そこでは英語中心にして、言語能力のスキルアップを目標にしていました。あとは、アメリカ、パデュー大学に交換留学ということで、自分の専門を学びたいという気持ちが多かったのですが、専門を学ぶといっても語学力は基礎になるので、周りの留学生が母国語でないながらも現地の大学生と対等にやりとりしているのには刺激を受けました。
稲垣 僕はAO入試で12月に入学が決まって入学前海外研修があると聞き参加しました。理由は、やはり違った世界を見たかったのが一番でした。実際行ってみて日本とは違った文化、勉強スタイルで、そこでまた海外に行きたいという気持ちが強くなりました。次にSAPでイギリスに行き、留学生との交流を通じて、今度は交換留学に行きたいと思うようになりました。
総長 我々の時代に比べて、早い時期に海外へ行っているという気がしますね。私の学生時代は昭和40年代でしたが、その頃は海外旅行の経験がある人そんなにいなかったし、ましてや海外留学は考えたことすらなかった。私が初めて海外に行ったのは医学部を卒業して、28か29歳の時に海外の学会に行ったのが初めてです。見るもの聞くものすべて珍しい、何よりも自分が海外に行っているということ自体にすごく何か驚いているような。南周りであちこちに泊まってヨーロッパに行きましたが、インドのムンバイに降りたときに、ここがインドだって思っただけですごく感激しました。今は時代が変わって、行こうと思えばみんなが行ける、いい時代だと思います。今までの経験の中で、海外にいるんだと強く感じた経験はありますか?
三浦 救急車に乗ったことがあり、病院でいろいろ話しかけられたのですがわからない言葉も多いですし、まず英語で話しかけられているというのがいつもと違う状況ですごく不安になりました。卒業論文で「日本に住む外国人の防災」について研究していますが、震災の時に、日本語がわかる外国人にとっても、母国語の情報が恋しくなったり、母国の人と一緒に集まりたくなったというお話があったので、自分でもそのような気持ちを実感できました。
総長 自らの経験をもとに、日本にいる海外の人たちの不安な気持ちを理解できる。それは異文化、国際化を理解するっていう力になりますね。みなさんが海外で経験してきた貴重なことです。ぜひそういう気持ちをずっと大切にしておいてください。
海外生活から得た大きな「気づき」
- 留学中の様々な経験から、今の自分の生活に何か変化はありましたか。
栗原 ドイツが初めての海外でしたが、それまでは自分が何かに興味を持ったとしても、それに対して能力が自分にあるのかと考えて立ち止まってしまって、その結果楽な方に行ってしまうことも時々ありました。しかし、そんなことを考えても仕方がない、一度行ってみようと考え、ドイツへ行きました。英語力に不安があったので、非常に心配で悩んでばかりでしたが、実際行ってみると自分の英語力で、ちゃんと相手は理解してくれました。未知の環境には自分の力で適応していくものだと思うので、行ってみればなんとかなるという気持ちになれたことが留学でとても大きい変化でした。
総長 強くなった感じがしますね。
三浦 私も同じような経験があります。アメリカでの交換留学の間もチャンスは一度しかない、ここを逃すともう2度とないんだとすごく意識していました。たとえば課外活動でリーダーシップをとることがあり、語学力やリーダーシップに自信はありませんでしたがチャンスなのでとりあえずやってみるという経験ができたこと、結果的にできたことは良かったと思っています。
稲垣 僕も高校までは海外に興味がなかったんですけど、入学前海外研修に参加して意外にやれば何とかなると思えたのが一番大きかったと思いますね。日本にいる時は気づけなかったことです。非日常を、普段経験できないことを味わって自分のスキルが上がって、大きくなれたというのがあるので、それが留学で得たことですね。
三浦 私は学業面で向こうの学生を見ていて、大学でどのような専門知識を身につけるか、大学を出た後にその知識やスキルをどのように活かしていくかをすごく重視していると感じました。
総長 今後日本の大学で問題になってくるのは、卒業した時にそれに見合うだけのものを身に付けているかということ。日本は学歴社会ということもあって、大学に入るときに頑張って、いい大学に入ってしまうとそれを一生看板として通用する社会だったけれどもおそらくこれからそういうのは通用しなくなって、本当に何を身に付けているかということが評価されるのではないかと考えています。海外の社会では出身校など問題じゃない、実力として何を持っているのかを評価する社会になっている。海外では大学の授業が休講になると学生が怒り出すそうですよ。これから大学は学生に力をつけさせることが必要になってくるのではないかと思います。
私は30歳を超えてから本当の意味での留学を経験し、アメリカのボストンにいた時に一番驚いたのが、学生食堂で食事をしていると「あの人はノーベル賞受賞者だよ」と聞いて、その人が学生と自由に話をしているのを見て、すごい環境だなと思いました。「知の館」はその経験がもとになっていて、その体験をぜひ東北大学の若い研究者にしてもらいたいと考えています。
大きく広がった卒業後の進路選択
- 卒業後の進路選択について、留学をして影響を受けたことはありますか。
栗原 今日本でも社内公用語が英語という企業が出てきて、本当にグローバルな社会になってきています。どこの企業に行っても外国の人が社内にいるとか、海外の支社と協力して行うといったこともいろいろ増えてくると思うので、私は修士1年で就活はまだこれからですが、もし自分が海外留学に行ってなかったら、そういう会社を避けて、自分の道をどんどん狭めてしまっていた可能性もあると感じました。
三浦 私は自信がついた結果選択肢が広がりました。アメリカに留学している間に企業に面接を受けたり、工場見学に行ったりする機会がありましたが、現地で働いている方や、私が留学していたパデュー大学の卒業生で日本で起業した方にも会い、話を聞けたことは、自分が将来、海外に行くにしても、日本でグローバルに働くにしてもさまざまな働き方が出来ることを実感できたのがよかったと思います。
稲垣 僕は今学部3年生で、8月からデンマーク工科大学に交換留学に行って考えが変わるかもしれないけれど、東北大学の大学院に進学しようと考えています。デンマークで大きな影響を受けたら、海外の大学院に行くと決心するかもしれませんが、そこはフレキシブルに、行ってから考えようと思っています。入学前海外研修やSAPに参加していなければ、こんなに英語や留学のことは考えなかったので、世界観はすごく広がりました。
グローバルな人材を育成する東北大学の取り組み
- 東北大学には様々な分野で国際的に活躍する人材を育成するためのTGLプログラムを初めとして、SAPや交換留学など多岐にわたるプログラムがあります。皆さんは実際に活用されて、どのように感じましたか。
栗原 TGLのプログラムは私が入学した2012年の翌年、2013年から始まったんですけど、すごく運がよかったと思います。なぜ東北大学を選んだかというと、私は理系に進もうと思っていて、東北大学は「研究第一主義」を掲げており、自分は研究していきたいと思っていたのが理由です。私の学部(工学部)では基本的に学部4年生から研究室に配属されるのですが、学部2年生、3年生という早い段階から研究室に仮配属になり、研究活動に参加できるStepQiというプログラムがあります。そこで、自分の専門分野を専門外の人に英語で説明したりするプレゼンテーションの練習など内容が充実していて、それに参加して自分はいろいろ得ることができました。仮配属になった研究室で自然言語処理という分野に出会いました。TGLやStepQi、とかそういうプログラムを通してその後の進路選択に非常に大きな影響を受けたので本当に良かったなと思います。
三浦 私は入学前からいずれ長期で留学したいと考えていました。SAPに2回行けたことも、学部で英語によるプレゼンテーションやディスカッションをする授業を取ったことで、交換留学に行く前の準備としてスキル身に付けられたのは、いずれ交換留学に行く前段階としてすごく役に立ったと思っています。
総長 ごくごく当たり前に「留学」というものが自分の人生に組み込まれているのが僕の時代とは全然違うなという気がしますね。
稲垣 僕の代からちょうど入学前海外研修が始まり、海外に行けたというのが僕の人生の分岐点だったといっても過言ではないと思います。やはり東北大にはそういった海外プログラムがいっぱいあるので、そういった面では東北大生は恵まれていると思います。使うか使わないかは学生に委ねられているので、今後入学してくる生徒には積極的に活用してほしいなと思います。
総長 我々の時代はあまり国際化というのは話題になっていなくて、大学行って卒業して日本の企業に勤めて、日本の中で暮らしていくというのがごくごく普通の人生設計だったと思うんですね。皆さんの時代は、本当にたとえ日本の中だけで暮らしていたとしても、世界の動きというものを考えながら判断しなければならない、国際的なことに関心持たなければならない時代になってきた。それから当然海外に日本の企業も出て行って、海外の企業が日本に来ている、そういうところで勤めていたりするというところで、国際化というのはどうしても必要となる。これから世界を舞台に東北大の卒業生として、リーダーとして働いてもらいたい。皆さんにとっては国際化は当たり前のこと、という意味でも本学はできるだけ早い時期に入学前や入学直後に短期間でも海外経験して、自信をつけたら今度は中期的に、最終的には留学というとこまでつなげていって国際的に育ってほしいという思いです。総長に就任し、いろいろな方々から寄附をいただき、学生をできるだけ海外に送り出せるようなSAPなど、みなさんを支援できる体制を作ろうとやってきました。今日皆さんのお話を伺って、大学としては作ってきた制度が機能していると感じて喜ばしく思いました。
海外研鑽に励む学生にエールを
- 最後に総長にお伺いします。東北大学は社会に貢献する人材を育成するために、真のグローバル化を目的とした制度の充実を図っています。その制度を活用し卒業後、国際的に活躍している卒業生や、今現在海外研鑽に励む学生にエールをお願いします。
総長 学生が大学を卒業して社会に出て行きさまざまな分野で活躍している様子を聞くのは非常に嬉しいことです。先日中国に行った時に、中国から東北大学に留学した人が中国に帰って活躍していると聞いて大変誇らしく思いました。今度は、元留学生の方と日本の卒業生が海外で活躍している話を同時に聞けるのではないかと期待しています。皆さんの後輩たちにも、その気になれば海外に行ける、いろいろな経験を積めば自信につながるということをぜひ伝えてほしい。そうすることで後に続く人たちの多くが国際的に育っていく。そういういい循環を東北大学の中で作っていきたいと思っています。
それぞれの学年、経験から様々なお話を聞くことが出来ました。時代の移り変わりとともに、国際化の価値は高められ、それに応えるかのように、学生の可能性は広がりを見せています。より多くの学生がその能力を生かせる機会を得ることができるよう取り組んでまいります。
この座談会は、「東北大学基金2015年度活動報告書」の巻頭特集として掲載されています。
【東北大学知の館】
本学が推進する「知のフォーラム」の拠点施設として整備を進めていた知の館が、平成27年3月に竣工しました。本施設を起点として、「人が集い、学び、創造する、世界に開かれた知の共同体への挑戦」を目指します。
「知のフォーラムについて」http://www.tfc.tohoku.ac.jp