東北大生だったときの私
私の大学時代を振り返ってみると、学部時代の大半は講義もそこそこで、積極的に勉学に励む学生ではありませんでした。ところが転機が訪れたのは、学部4年生の時、猪股宏教授の研究室(超臨界溶媒工学研究センター)に配属された時でした。まだ、誰もやっていないことを解明する研究の魅力に取りつかれ、今までが嘘のように研究に取り組みました。研究室のメンバーにも恵まれ、研究室の仲間と旅行に出かけたり、朝まで酒を飲んだりと楽しい学生生活を送りました。
その後大学院に進学して、修士課程は中村崇教授(多元物質科学研究所)、博士課程は葛西栄輝教授(多元物質科学研究所)にご指導をして頂きました。大学院での研究室は、留学生が学生の半数近くを占めるという状態で、日本語がほとんど通じなく辞書を片手に冷や汗をかきながら会話した記憶があります。その甲斐があってか、文法や発音は別にして外国人と話す度胸だけはつき、韓国、アメリカ、ドイツ、オーストラリアでの国際会議での発表をすると共に異国の文化にも触れ合うという素晴しい経験をさせて頂きました。充実した学生生活を送り、博士課程修了後、同和鉱業株式会社(現‥DOWAホールディングス株式会社)に入社しました。
東北大学と現在の私
私の会社は仙台に工場を持っていないので、仙台に来る機会も少なくなると思っていましたが、ご縁がありまして恩師の一人である中村教授と二〇〇八年から三年間共同研究を行うことになりました。在学中は当たり前だと思っていましたが、東北大学は研究に関する施設や人材などが豊富であり、自分自身が望めば思う存分研究に打ち込める環境が整っていることに改めて気づかされました。
現在、私は中村研究室で、廃棄物として処分されている小型電子機器などの基板から金属をリサイクルするための研究を行っています。小型電子機器の基板は「都市鉱山」と言われるだけあって、鉱石と比較して金、銀、銅やレアメタルなどの品位(濃度)が高い一方で、鉱石にはほとんど含まれない塩素や臭素などのハロゲンが多く含まれるという特徴があります。通常、ハロゲンは設備を腐食させたり、金属のリサイクル率の低下を招いたりする厄介なものでありますが、逆に厄介なものをうまく活用して効率的な金属リサイクル方法を確立するために、日々研究室で実験に励んでいます。
残された共同研究期間はわずかになりましたが、これまで以上に「最高の研究環境」である東北大学で研究に励み成果を出していきたいと思います。その成果が企業活動を通じて金属の安定供給、価格安定化に少しでも役立ち、東北大学への恩返しと社会貢献へ繋がればと思います。