地域と大学 高齢者の健康づくりに
取り組んで 永富 良一

 運動訓練で元気な高齢者に

 宇宙に一三七日滞在した若田光一さんは「軌道上で私たちは、トレッドミルや自転車漕ぎ装置、筋力訓練装置で毎日約二時間の運動を行っています」とブログに書いています。宇宙空間のように微少重力環境にいると利用しない筋肉がどんどん萎縮するからです。スポーツのトレーニングはまさに骨格筋に必要性を教えるプロセスです。このことは一般人の健康にも大きく関わっています。
 一九九四年に米国の老人ホーム入居者に筋力トレーニングを行い、大幅に体力が改善したことが報告されました。当時は、そこまでやる必要があるのかと批判もありました。しかし、今では体力が低下した高齢者でも寝たきりや転倒予防に運動訓練が効果的なことはよく知られています。私たちも一九九八年に仙台市シルバーセンターで平均六十七歳の方々対象の半年間のトレーニング効果の検証を皮切りに高齢期の体力やトレーニング効果について多くの市民の方々の協力を得ながらいろいろな知見を得ました。例えば、トイレが自室にある老人ホームより共同トイレの老人ホームに入居している方が、体力は明らかに高く保たれていました。個人の体力や運動機能が日常生活に依存していることが、明確にわかる事例です。写真は鶴ヶ谷の七〇才以上の方々のグループがカンフー体操を行っている様子です。ここの多くの方々はこの二年前にはかなり体力が低下していましたが、いろいろなタイプの運動を行うことにより大半の方々が今でも元気に運動を続けています。

 自分にあった楽しい運動をすることが大切

 運動トレーニングを行ってもそれが日常の体の動きを上回らないとあまり効果は得られません。慣れない運動を行うと筋肉痛になりますが、繰り返し行ううち筋肉痛はなくなります。これがトレーニング効果です。関節や靱帯さえ痛めなければ、年齢にかかわらず筋肉は適応します。人によって好きな運動は異なりますが、体操、競技スポーツ、踊り、レクリエーションいずれであっても上の条件を満たしていれば、体力の低下を防ぐことができます。画一的である必要はありません。歩くのは誰でも手軽にできる簡単な運動です。普段あまり歩いていない人には効果的です。普段から歩いている人で運動が必要な人は急ぎ足あるいは坂道などを歩いて負荷を増やす必要があります。大事なことはケガに注意しながら自分にあった楽しい運動を行うことです。継続しないと効果がないと言われますが、一つの運動にこだわらなくても飽きたら別の運動を行えば十分に効果は得られます。
 このように一〇年間で得た多くの知見は、仙台市および各区の健康福祉事業や介護予防サークル、社会福祉協議会のサロン活動などに生かしていただいています。

70才以上の方々のカンフー体操の様子
(仙台市鶴ヶ谷地区)

 手軽に運動を楽しめる仙台へのお手伝い

 現在の課題は、研究者が直接関わらなくても市民の方々のサークル活動が尻すぼみにならないようにすることです。新鮮な情報の提供が活動レベルの低下を防ぎますが、むしろ皆さんの知恵をうまく活用するためにグループ同士の活発な情報交換が重要です。現在文部科学省の広域仙台先進予防型健康社会クラスター創成事業の中で、いつ、どこに行けばどのように楽しく体を動かすことができるのか高齢者に限らずあらゆる年齢層の方々が利用できる具体的な運動資源のデータベースの整備を進めています。実は、体力の面で問題が大きいのは小さい頃の運動体験が乏しい若い世代です。老いも若きもいつでもその気になれば、手軽に運動を楽しめる仙台になるお手伝いをしていきたいと考えています。



永富 良一 永富 良一(ながとみ りょういち)
1958年生まれ
東北大学大学院医工学研究科 教授
専門/体力科学、運動学
http://www.sports.med.tohoku.ac.jp/index.html


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