光の科学

山本 正樹=文
text by Masaki Yamamoto
 
 

”美しさ”の背景

 ”夕焼け”や”虹”の美しさの背景には、光が備えている「散乱」や「屈折」、あるいは「反射」の性質があります。身近でも、携帯電話や壁掛けテレビの液晶画面は、光の「偏り」の性質を利用しています。これらの身近な現象は、学びによって光の本質を理解すると、さらに”美しさ”を深めます。

偏光 (へんこう) を体験する

 光の「偏り」を体験するには、スキー用の偏光サングラスが便利です。メガネ屋さんでちょこっと借りて掛けて、携帯電話の画面を見ます。画面を時計回りで上下が逆転するまでゆっくり回して方位角を変えると、明るさが大きく変わって暗くなる方位角が見つかります。

光の偏 (かたよ) り

 光は、波としての性質で、紐(光)を縦に振った時のように振れ方を上下一直線の方向に制限することで直線偏光にできます。液晶画面からは直線偏光が出ていて、偏光サングラスは決まった方位角で振動する偏光だけを通すので、光が通れない方位角(90度の直交位置)で画面は暗くなります。

偏光サングラス無しで偏光が見える!

 携帯電話の画面をメール編集の白い画面にします。先ほどの様に画面を回すと、図のような青と黄色の模様が画面に見えませんか?肉眼で見えるこの模様が「ハイディンガーのブラシ」で、直線偏光の振動方向は青矢印の方向にあります。  
 ハイディンガーのブラシ
 (イメージスケッチ制作 原田哲男)
  矢印は直線偏光の振動面を示す

直線偏光の鋭さがナノテクノロジーで活躍する

 図の青線には太さがありますが、実際の直線偏光では、線幅を長さ(振動の大きさ)の0.1%(1000分の1)に精細化できます。この鋭さでは、振動の波長の0.1%が測れるので、薄膜の厚さを精密に測るナノテクノロジーとなります。例えば、波長0.5μm(マイクロメータ)の緑の光を使うと、原子2個分の0.5nm(ナノメータ)を測れます。

測ることができれば造れる

 ナノテクノロジーの”物造り”では、造るための”測る”道具が重要です。原子数個が測れれば、光の仲間であるX線を反射できる特殊な多層膜構造の”鏡”が造れます。私たちは、波長が13nmのX線を反射する精密な多層膜曲面鏡を造り、X線の顕微鏡を開発して、元素の分布を観察できる新技術として実用化に挑戦中です。

X線用の新発明”合わせ鏡”式顕微鏡

 間隔10cmの合わせ鏡式顕微鏡を試作して、波長440nmの紫色の光で体長1mmのミニバエの羽に生えた毛の観察に成功しました。X線波長の13nmでは、さらに30分の1の数十nmの精細さが得られるので、活動するがん細胞やウィルスを元素分布で観察して機能を明らかにできるというわけです。医療に貢献する日本発の新技術として3年後の実用化をめざしています。

主体的に得る”学び”の面白さ

 私の”光の科学”の授業は、ここに紹介したように”体験”から始めて、最後は次のメッセージで締めくくります。
 「この授業で、単純な基本原理から自分で組み立てて考える、主体的に得る”学び”の面白さを感じてもらえましたか?食欲や性欲などの生物的欲望の充足感は満たされれば直ちに消えます。しかし、まったく異質の深く持続する喜びが、主体的な学びで生み出した物(発見や作品など)とその経験で得られます!」


やまもと まさき

1947年生まれ
東北大学多元物質科学研究所
先端計測開発センター教授
専門:応用光学,軟X線多層膜光工学
http://www.tagen.tohoku.ac.jp/labo/m_yamamoto/index-j.html

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