クローズアップ/地域と大学
地域をフィールドとする社会学的知
吉原 直樹=文
text by Naoki Yoshihara
 

社会学の地域参画
 文学研究科社会学研究室のスタッフは、これまで、仙台市や宮城県の各種審議会、委員会に委員として加わるなかで、市民公益活動、社会福祉計画、社会教育計画などに積極的にかかわってきました。
 もともと社会学は実践的な性格の強い学問ですが、とりわけ20世紀初頭から1920年代のシカゴにおいて、フィールド作業を通して大学と都市、社会が相互に影響しあうという伝統が形成され、それがその後、臨床社会学へと発展するといった歴史をもっています。こうした伝統=歴史の上に、まさに「コンサルテーション(諮問・協議)」の機能を担いながら、社会学者は地域とか社会にかかわってきましたし、現にかかわっています。そしてこうした社会学者の地域/社会参画は、社会のシステムが高度化し、複雑化し、多様化するなかで、いっそう強くもとめられるようになっています。
 私についていうと、ここ数年来、社会教育委員会議、安全なまちづくり市民懇談会、消防力の整備の在り方に関する懇話会、コミュニティビジョン検討委員会(写真参照)など、いずれも仙台市関連ですが多くの議論に加わってきました。そして現に、コミュニティビジョン検討委員会では、町内会やNPOなどをとりあげながら、市民と行政、コミュニティと行政の協働のあり様が議論されており、近々、コミュニティの社会設計に向けての提言がなされることになっています。私は一人の社会学者としてこのプロセスに積極的に関与しています。
コミュニティビジョン検討委員会(仙台市提供)
コミュニティビジョン検討委員会(仙台市提供)
 
「外に開いた」コミュニティ
 ところで今日、グローバルなネットワークとローカルなさまざまな活動が激しくせめぎあうなかで、これまでコミュニティが前提にしてきた地域性(地域的な領域/ナワバリ)と共同性(地域住民間の社会的結合)が大きく揺れ動いています。ヒト、モノ、コトが国境を越えて移動するとともに、上述のような地域性および共同性に代わって、より広い地域との連携にもとづく「地域性」と、自分たちとは異なる人びとの自由や権利を含みこんだ「共同性」とに立脚するような、より「外に開いた」コミュニティが取りざたされるようになっています。
 
大学と地域をきりむすぶ社会学的知
 考えてみると、こうしたコミュニティは、理論レベルでは、「親密圏」(=自分とは異なる他者への配慮とか関心を媒介にしてできあがる持続的な関係性)とか、その発達した形態である「公共圏」、あるいはグローバルな市民社会の中間領域などに関する社会学的議論のなかである程度論じられています。しかし市民の視線で見据えることのできるような、経験的なものとしては未だ確立していません。だからこそ、理論的研究の成果とフィールド(現場)で得た知見とにもとづいて、そうしたコミュニティを具体化する社会学者の役割といったものに社会の期待がいっそう集まるようになっています。
 社会学者の前には、いま防犯コミュニティとか防災コミュニティ、あるいは福祉コミュニティが、通常いわれている以上に深い意味を帯びて立ちあらわれています。なぜなら、それらは今日、社会学者にとって自らの理論の有効性が問われ、その実践的な力が試される場となっているからです。
 いずれにせよ、私はいまを生きる社会学者の一人として、常に市民のまなざしにさらされながら、日々、大学と地域の間を往き来しています。

 

よしはら なおき

1948年生まれ
東北大学大学院文学研究科教授
専門:都市社会学、アジア社会論
http://www.sal.tohoku.ac.jp/~n-yoshi/

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