テラヘルツという名の新しい「光」の開拓

小山 裕=文
text by Yutaka Oyama
 
 

テラヘルツとは

 初めから「テラヘルツ」という聞き慣れない言葉が出てきました。これはラジオやテレビで使われている電波の周波数の高さを表す言葉で、現在携帯電話で使われている電波の1000倍くらい高い周波数に当たります。これくらい高い周波数になりますと、電波ではありますが、光の性質も同時に持つようになります。図1に示しましたように、電波と光は本質的に同じものなのです。電波には物を透過する性質があり、光にはレーザ光線のように直進する性質があります。テラヘルツの波は光と電波の間の電磁波と呼ばれていて、両方の良い性質を併せ持つ、とても役に立つ光なのです。
 テラヘルツの光は、電波としてはとても高い周波数の電波ということになりますし、光としては目に見える光よりもずっと低い周波数の光ということになります。とても高い周波数の電波ですので、これまでの半導体ではなかなか発生させることが難しく、長い間ほとんど使われて来ませんでした。そのため、テラヘルツ光は長らく「未使用電磁波領域」と呼ばれていました。しかし、東北大学にはアンテナで世界的に知られる八木秀次教授以来、使うことが出来ない高い周波数の電波を開拓してきた伝統があります。
図1 テラヘルツの周波数位置
図1 テラヘルツの周波数位置
 
テラヘルツ波の応用
 電波や光などは、その周波数(振動数)に応じたエネルギーを持っています。例えば、青い色は赤い色に比べて、大体2倍も高いエネルギーを持っています。テラヘルツの光はエネルギーの観点から見ると、およそ、室温付近つまり人の体温に近いエネルギーを持っています。そのため、体内の生体関連物質、つまり生物の活動や構成に関係するタンパク質などの大きな分子や遺伝子といった物と大変密接に関係しあいますから、それらの分析や改質などの加工に最も適した手法の一つとなる可能性を秘めています。しかもレントゲン撮影で使われるX線やガンマー線などの放射線と違って、人体に悪影響を与えない安全な光と考えられています。
 私たちの研究室では、半導体の結晶を使って、この有用なテラヘルツ光を効率良く発生する装置を開発し、医療や薬学そして情報通信やセキュリティー分野ばかりでなく、建物や橋梁の非破壊検査などといった非常に幅広い応用分野を開拓する研究を行っています(図2)。
図2 新しい光・テラヘルツ(THz)光の応用分野
図2 新しい光・テラヘルツ(THz)光の応用分野
 
完全結晶とテラヘルツ波
 テラヘルツ光が発生する原理は、半導体結晶の中のとても規則的に並んでいる沢山の原子が細かく震えていることに密接に関係しています。原子が規則的に並んでいる度合い、これを結晶完全性と言っていますが、結晶完全性が高ければ高い程、効率的に広い範囲のテラヘルツ光を強く発生することが出来ます。私たちはそのために、完全結晶実現のための研究も併せて行っています。
 今は未だ聞き慣れない「テラヘルツ」という言葉が、皆様の身近な存在になるのも、そう遠くないことと信じております。


おやま ゆたか

1955年生まれ
東北大学大学院工学研究科教授
専門:電子材料学、結晶工学
http://www.material.tohoku.ac.jp/~denko/lab.html

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