平井 敏雄=文
text by Toshio Hirai
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東北地方を旅すると、いろいろなところで「こけし」(伝統こけし)を見かけます。いつでも、可愛い顔で微笑みかけてくれます。私は、大阪から仙台に助手として着任した昭和37年以来、こけしに魅せられて、今では二千本余りのこけしを収集している「こけし狂」になってしまいました。 伝統こけしの発祥の地は、鳴子温泉、遠刈田温泉、土湯温泉の3カ所といわれています。その後、生産地は東北地方の全域に広がり、11系統に分類されています。こけしの形態や描彩には伝統にもとづく厳しい制約があり、400名余りの工人が各系統の伝統を守りながら作っています。こけしは、昔は「デク」とか「キボコ」とか、土地によって60種類以上もの方言で呼ばれていましたが、1940年(昭和15年)に東京こけし友の会が現在の「こけし」という呼称に統一しました。 ところで、「箱入り娘には虫がつきやすい」の言葉通り、大切にしているこけしにも虫がつきます。ときどき、こけしの足元に木屑のような粉が積もっていることがあります。家具や書籍などを食害する生活害虫に関しては多くの研究が行われていますが、こけしを食う虫に関する研究はまったくありません。そこで私はこけしを食う虫のことを20年間も研究して、本(650頁もの大作?)を出版しました。大変面白い本ですから・・・・・・・(あとは宣伝になるので書きません)。 虫が卵を産みつけた木材で作られたこけしでは、その中で幼虫がすくすくと育っています。材の栄養分が豊富であれば1〜2年で成虫になりますが、栄養分が少ない場合は、成虫になるまでに20年以上もかかることがあります。その幼虫はこけしの中で20歳の成虫式(?)を迎えるのです。「ウッソー!」ではなく本当の話です。成虫になると、直径五ミリ余りの孔を開けて、こけしから出てきます。この虫はカミキリムシです。高いお金を払って買ったこけしを眺めていて、突然こけしの眼とか口からカミキリムシがニュッと顔を出したら、「お化けーーーッ」といって、腰を抜かすかも知れませんね。 この他、ヒラタキクイムシやフルホンシバンムシもこけしから出てきました。お宅のこけし達は大丈夫でしょうか・・・・・・・。 |
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ひらい としお 1937 年生まれ 現職:東北大学金属材料研究所教授 専門:セラミック材料科学 |