産学官連携による新しい地域産業の創出へ ―仙台市地域連携フェロー活動の概要― | |
堀切川 一男=文 text by Kazuo Hokkirigawa |
2003年に、東北大学総長、宮城県知事、仙台市長、東北経済連合会会長から構成される「産学官連携ラウンドテーブル」が開催され、地域の自立的な新産業創出のため、専門的知見を活かした産学連携事業の円滑な推進をめざして、東北大学教員が宮城県や仙台市と連携して活動することが合意されました。 この合意に基づき、私は、2004年4月から仙台市地域連携フェローとしてさまざまな活動を行ってきています。以下に、現在までの活動の概要をご紹介します。 寺子屋せんだい 仙台駅前のアエル7階の(財)仙台市産業振興事業団の会議室において、仙台市地域連携フェロー主催で、少人数サロン形式のセミナー「寺子屋せんだい」を毎月1回開催しています。これは、大学と地域企業のネットワークづくりをめざすとともに、地域企業の新たな事業の創出や既存技術の改良などのヒントを得る場となることをめざしているものです。地域の大学や高専から講師をお招きし、講演していただくとともに、引き続き交流会も開催しています。 御用聞き型企業訪問 月に数回のペースで「御用聞き型企業訪問」という活動を行っています。これは、仙台市及び(財)仙台市産業振興事業団の方々とともに地域企業を訪問し、工場を見学させていただくとともに、技術相談に応じるというものです。 大学の人間が地域企業に出向き、「研究開発や技術上の問題で困った時は、いつでも相談に応じますのでお気軽にご連絡下さい」という御用聞き型のスタイルで企業訪問を行う活動は、おそらく全国でも初めてだと思います。これまでに、およそ50社の地域企業を訪問させていただき、対応した技術相談の件数は延べ百件以上になります。
地域企業との共同研究 御用聞き型企業訪問などの活動を通じて、開発に挑戦したものの残された課題を抱えて困っている地域企業があることが分かりました。そこで、この課題解決をめざして、地域企業と共同研究も行ってきています。 これまで3年余りの期間に、高圧絶縁電線自動点検装置、靴・床すべり摩擦測定機、耐滑性に優れたサンダル、滑りにくい樹脂製畳、耐滑性に優れた歩道用コンクリート平板、リサイクル樹脂を用いた輪止め、耐滑・防水タイプの一体成形靴、耐滑自転車タイヤなどを実用化することができました。これらの多くには、私の研究室で開発した硬質多孔性炭素材料RBセラミックスが利用されています。 このように短期間で多数の製品開発を達成できたのは、東北大学と仙台市との密接な連携のもとで、地域企業のニーズと大学のシーズのマッチングを効果的に図ることができたためと考えています。 私の研究室でこれまで開発した製品には、世界最軽量の電動車椅子、歩行安全性に優れた靴や歩道材料など私たちの生活に密着したものが多いのですが、これは、最先端の研究成果を活かした生活支援産業の構築をめざしているためです。
おわりに 「これからの時代は、多彩な新産業の登場の時代である」と私は考えています。多くの企業が、新規事業に挑戦、成功することで、新産業を産み出し続けることができれば、我が国の経済発展が維持され、新たな雇用が産み出され、空洞化に直面している我が国の多くの中小企業に対して、新しいものづくりの仕事が創出されるのです。新産業を創出する重要な担い手は、企業雇用者数の約7割を占める中小企業です。新規事業に成功することで中小企業の1割が雇用者数を倍増できれば、企業雇用者数を280万人も増加させることができるのです。 私は、これからも地域企業と連携させていただきながら、「新しい地域産業の創出」という夢に向かって挑戦していきたいと考えています。 |
ほっきりがわ かずお |