シリーズ 代替エネルギー4

シリーズ 代替エネルギー4
原子力発電における「保全」
―安全性・信頼性の向上をめざして
橋爪 秀利=文
text by Hidetoshi Hashizume
 
 
はじめに
 原子力エネルギーが代替エネルギーとして使用され始めてからすでに46年が経ち、現在、日本における電力の約30%を担っています。原子力発電で使用されるウラン燃料は、核燃料サイクルが確立すれば、500年〜2000年持続させることが可能であり、また、運転中に排出する二酸化炭素がほとんど無いという利点があります。さらに、今後は、電力の発生だけではなく、石油資源の代わりとなりうる水素の生産についても研究が進められており、技術の確立をめざして研究が進められています。
 しかしながら、一度大事故が発生するとその時の被害の大きさが非常に大きいという原子力発電所がもっている災害ポテンシャルの高さや、高レベル廃棄物の問題が存在しており、これらの問題について避けて通ることはできません。本稿では、原子力発電所の安全性に関する課題の一つとして、長時間に亘って使用することによって配管に大きな傷を発生させる可能性のある問題とその対策について紹介します。
 
保全とは
 機械やシステムが安全に機能するように、いろいろと検査し具合の悪いところを交換するという作業を保全活動と呼んでいます。特に原子力発電所の保全活動においては、機器の監視・動作試験・検査などを通して不具合を見つけ、すべて補修するということを行ってきました。これは、日本の原子力発電所では建設時の基準(傷がないなど)をそのままずっと適用してきたからです。
 しかし、最近では米国などで適用されている考え方を導入して、検査して見つかった傷の大きさ・深さを科学的に評価し、余裕を持って安全性が確保できるかどうかを見極め、継続して使用するか、補修するかを決定する方式が導入されました(維持基準と呼ばれてます)。すなわち、傷が発見された場合に、この傷が良性なのか悪性なのかを見分けて、良性ならば様子をみることにするというものです。このような考え方に基づいた保全の信頼性を高め、安全性を確保すると同時に、より効率的に運用するためには、まず、傷が発生する原因を把握し、可能ならば発生する場所をできるだけ事前に特定できるようにすることと、検査の精度を上げることが不可欠となります。
 
傷を発生させる原因の1つ
 火力発電、原子力発電を含む多くのプラントでは、異なる温度を持つ流体を混合する部分が非常に多くあります。このような部分では、非定常な流動現象(時間と共に、流れの様子が変化する現象)が誘起され、この変動が原因となって温度の高い流体と温度の低い流体が交互に管の壁にぶつかるようになります。この結果、壁の材料が伸ばされたり縮められたりすること(熱疲労)により、場合によっては傷が発生し、放置すれば、さらに、傷が深くなることがあります。 
 図には、曲がり管の下流でT字型の合流部があり、温度の異なる流体が混合している場合の流れの様子と配管壁の温度変化の様子を示してあります。図中の二次流れ(管の断面での流れ)については、図の右側に示してありますように、時間とともに流れが複雑に変化していることがわかります。この結果、横から侵入した温度の異なる流体がこの複雑な流れの影響を受け、管壁の温度の変化がさらに大きくなり、熱疲労の原因になっていることが明らかとなりました。
 現在、混合する場所や、配管の太さを変えるなどによって、壁の温度変化がより少なくなる混合方法を開発しております。その他にも、傷を発見するための新しい方法の研究や、どれくらいの期間で検査を行うことが合理的であるかなどの研究も同時に進めておりますので、ご興味のある方は、ご遠慮なくお越し下さい。
図:T字配管合流部での流動と温度変動

橋爪 秀利

はしづめ ひでとし

1961年生まれ
東北大学大学院工学研究科教授
専門:核融合炉工学、原子炉工学
http://www.qse.tohoku.ac.jp/lab/key.html#Physics

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