安全・安心な社会の構築に貢献する
世界一のスーパーコンピュータSX‐7
小林 広明=文
text by Hiroaki Kobayashi

コンピュータシミュレーション
人類の強い味方です

 現在、宮城県沖地震が今後高い確率で発生することが予想されています。その被害を最小限に食い止めるためにさまざまな対策がとられつつありますが、適切な対策を計画するためには、事前に地震の強さ、被害の及ぶ範囲などを正確に予測することが必要になります。しかし、地震などの大規模災害を発生させる実験をすることはできません。このように実際に行うことが困難、不可能、または危険であるような実験をコンピュータ上で模擬的に実験し、評価・解析する技術をコンピュータシミュレーション技術と呼びます。
 コンピュータシミュレーション技術は、伝統的な科学技術研究の方法である「理論」と「実験」に加え、新たに「第三の方法」として、現代科学技術の発展に大きな役割を果たしています。具体的には、宇宙開発、核融合などのビッグサイエンス(大きな資源の投入を必要とする国家プロジェクト)のみならず、医療診断、新薬の開発、新素材開発、自動車・航空機開発など産業界の製品開発における国際競争力の維持・発展や、ヒートアイランドなどの環境アセスメント、台風・地震などの自然災害予測に基づく安全・安心な社会の構築など、さまざまな分野で必要不可欠な方法となっています。

図1 スーパーコンピュータSX-7

スーパーコンピュータ
シミュレーションの強い味方です

 コンピュータシミュレーションで物理現象の解析を行うためには、対象とする領域を細かく分割し、それぞれの小領域での空気の流れや力の伝わり方を計算により求めます。従って、より高い精度で現象の予測を行うためには、領域をできるだけ細かく分割して計算しなければなりません。その結果、扱うデータは数十億から数兆文字に相当する量になります。そして、これらのデータを基に、現象の解析・評価を効率的に行い、タイムリーな予測(明日の天気予報に一週間もかかっては使い物になりません)をするためには、大量のデータを瞬時に処理できる高性能な計算能力が求められます。
 スーパーコンピュータとは、コンピュータシミュレーションの高速処理を主目的として研究・開発された科学技術計算用の超高性能コンピュータの総称で、その時代のトップクラスのコンピュータとして位置付けられます。

世界一のスーパーコンピュータSX‐7
安全・安心社会の強い味方です

 パソコンを数千〜数万台並べただけでは、優れたスーパーコンピュータを作ることはできません。スーパーコンピュータには、大量の計算を行う個々の演算能力の高さばかりでなく、演算器・メモリ(データを保管する記憶装置)間、および複数の演算器間でデータを高速にやりとりするための高いデータ転送能力が求められます。さらには、スーパーコンピュータの高い潜在能力を最大限引き出すための高度なソフトウェア技術も必要とされます

図2
次世代超音速旅客機のSX-7によるシミュレーション
結果(工学研究科 中橋和博教授提供)

 私たちは、スーパーコンピュータのシミュレーションプログラム解析、およびその高速化技術に関する研究開発を企業と連携で長年にわたって取り組んできました。その成果が数多く取り入れられて開発された東北大学のスーパーコンピュータSX‐7(図1)は、2004年11月、スーパーコンピュータの世界的な性能評価試験「HPCチャレンジ」において、28項目中16項目で世界最高性能を達成し、国内外で高く評価されました。SX‐7は365日、24時間フル稼働で学内外の学術研究者に利用され、新聞紙上を賑わせる数多くの成果を生み出しております。
 図2に、SX‐7を活用して得られた研究成果の一例として、次世代超音速旅客機のシミュレーション結果を示します。
 今後とも、日本の先端科学技術分野における国際的なリーダシップの維持、および安全・安心な社会の構築に重要な役割を果たすスーパーコンピュータの研究開発を通じて、社会に貢献していきたいと考えています。ご興味がございましたら、お気軽にご連絡ください。世界最高性能のスーパーコンピュータを直接ご紹介します。


こばやし ひろあき

1961年生まれ 
現職:東北大学情報シナジーセンター
   副センター長、 教授  
専門:スーパーコンピューティングシステム 
http://www.sc.isc.tohoku.ac.jp/~koba/

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