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「開いて守る」安全・安心な まちづくりをもとめて |
吉原
直樹=文
text by Naoki Yoshihara |
安全神話の崩壊 人日本の安全神話が崩壊してから久しい。じっさい、米中枢同時テロ、牛肉偽装事件、イラク戦争、相次ぐ台風・地震など、ここ数年、列島の内外で生じたできごとは、この社会の安全と信頼を大きくゆるがしています。しかしそれ以上にわれわれの社会を不安の底におとしいれているのは、われわれの身近な日常生活において、凶悪犯罪の激発とか交通事故の増大など、人びとの暮らしを直接脅かすできごとが噴出していることです。ちなみに、内閣府が昨年(2004年)7月に公表した「安全・安心に関する特別世論調査」によると、現在の日本が安全で安心して暮らせるかと聞いたところ、「そう思わない」と回答したものが55.9%に達しています。また仙台市が2003年12月に市政モニターを対象に実施した「安全なまちづくりに関するアンケート調査」の結果によると、回答者のうちの実に71%が「日頃、犯罪の被害にあいそうで不安に感じる」と答えています。いずれにせよ、人びとの間で「不安」を訴え、「安全・安心」をもとめる声がかつてないほどの高まりをみせています。
防犯まちづくりの進展 ところで、こうした動きに呼応するかのように、各種行政レベルでさまざまな危機事象が想定され、対処指針とか危機管理マニュアルなどが作成されています。とりわけ防犯まちづくりに関していうなら、多くの自治体で「安心・安全なまちづくり推進要綱」(国土交通省・警察庁)による施策の推進とか「共同住宅に係る一般的防犯基準」による住環境の整備などがなされています。とはいうものの、防犯まちづくりは行政と市民各層とのコラボレーション(協働)にもとづいて遂行されることによってはじめて実効性をもつと考えられており、現在、多くの自治体でそのための基本事項、指針などを定める条例の制定が検討されています。 「開いて守る」安全・安心なまちづくりを もっとも、安全・安心なまちづくりに向けての現行の動きにはさまざまな問題がひそんでいるのも事実です。1つは、防犯カメラやセンサーなどのゆきすぎた配置・整備によって、繁華街にとどまらず学校とかコミュニティなどがジャック・アタリ(フランスの思想家)のいう「自己監視財」(社会的規範を積極的に受け入れて自己規定をうながす装置)のような性格を帯びていることです。そしていま1つは、一部外国人、ニート(職に就いていず、学校機関にも所属もしていず、そして就労に向けた動きをしていない若者)、ホームレスなどを人びとの日常生活の安全・安心を脅かす危険性のある存在としてラベリング(レッテル貼り)しがちであることです。そこには、社会一般の支配的な価値に照らして異質に見える者を排除することによって「安全」を確保するという思想が見え隠れしているように思われます。言い換えれば、監視や管理のゆきすぎた強化により、「閉ざして守る」方向へ行きかねません。 |
1948年生まれ 現職:東北大学大学院文学研究科 教授 専門:都市社会学、アジア社会論 |