小選挙区制については一般に、死票が増える、現職が有利で無風化しやすい、などの批判があり二大政党化を促すなどの特質があります。宮城県の小選挙区の選挙結果を読み解いてみましょう。
今回の宮城県の総選挙結果でもっとも興味深いのは、ほとんど指摘されていませんが、表1のように、小選挙区で当選した議員の平均年齢が45.0歳と全国でもっとも若いことです。最高齢の鹿児島県と比較すると、24.2歳も若くなっております。「世代交代」は、今回の総選挙の注目点の1つでしたが、宮城県ではそれが著しいものでした。表1をみると、千葉県・埼玉県・京都府のような大都市圏とともに、宮城県・三重県・岩手県のような「改革派知事」のいる(いた)県で、議員の若返り傾向が目立つことがわかります。より詳細な検討が必要ですが、知事の改革姿勢と相対的な年齢の若さは、国政議員の世代交代をもすすめるという波及効果も一定程度あるようです。
第2は、民主党と自民党の接戦です。宮城県は選挙前は民主党4・自民党2でした。これは内閣支持率の低い森内閣のもとで行われた2000年六月の衆院選の結果であり、当時の新聞は自民党の「歴史的敗北」という大見出しをつけました。今回は、民主党がどの程度議席を守れるか苦戦が予想されました(ここに選挙違反事件の背景があります)。事前の予想以上に民主党が善戦し、民主党と自民党が三議席づつ分け合いました。国政選挙についてみると、宮城県は全国有数の民主党の強い選挙区です。民主党は参院地方区でも一議席づつ計二議席をもっており、自民党と互角の選挙戦をそれぞれ2度の衆院選・参院選にわたって続けたことになります。
1993年宮城県では、当時の仙台市長と宮城県知事が相次いで逮捕されるというショッキングなゼネコン汚職事件が起こりました。それまで宮城県は、長い間、三塚博・愛知和男代議士という実力政治家を中心とする保守勢力優位の比較的安定した選挙区でした。
この事件を契機として、浅野知事の2期目の選挙戦で明確になった既成政党の推薦をあえて受けない「無党派」知事の誕生、二大政党の伯仲、世代交代の急速な進展という3つの点で、宮城は全国の政治動向をいち早くリードする「アンテナ型選挙区」となったといえます。いわばアンテナショップの政治版です。仙台は長年流行の受信地というイメージが強かったのですが、新しい政治動向については近年むしろ発信地的な性格を強めています。
このような変化の政治的・社会的背景は次の点でしょう。(1)そもそも支店経済的で、地元資本の有力企業が限られ、保守層の政治経済的支配力がそれほど強くないこと、(2)ゼネコン汚職事件を契機に、ゼネコンや土建業界の政治的影響力が弱まったこと、(3)同事件を契機に、既成の実力政治家の影響力も相対的に弱まったこと、(4)同事件の反省として、地元紙やメディアが県政や市政、政権党に対して距離をおく姿勢を示したこと、(5)そもそも仙台が「学都」であり、高等裁判所などがある中核都市であるために研究者や弁護士など、所属集団から精神的に自立した自由業的専門職層が相対的に多かったが、彼らがこの事件を契機に政治的関心を高め、「透明性」と「変革」を求めるオピニオンを形成してきたこと、(6)これを背景として、市民オンブズマン活動や各種のNPO活動などが活発化してきたこと、などであります。(7)仙台が人口百万人規模の都市であり、東京・大阪のような大都市圏ほど錯綜し茫漠としていないために、アンテナ性が比較的純粋に顕在化しやすいのだともいえるでしょう
宮城県の6つの小選挙区のうち、県南の3区は惜敗率99.673パーセント、2区は惜敗率96.524パーセントという大接戦となり、いずれも次点候補が比例区で復活当選をはたしました。惜敗率は当選した候補の得票数に対する、落選した候補の得票数の割合です。
3区で当選した自民党公認候補と落選し比例区で復活当選した民主党公認候補の票差はわずかに242票でした。稀に見る大接戦で開票率99%の段階でも当確が出せませんでした。仮に自民党候補に投じた有権者のうち243人が棄権したならば、結果は逆転したことになります。これは3区の有権者全体の0.00085パーセントにあたります。3区の有権者が千人に一人の割合で自民党候補に投ぜずに棄権したならば、あるいは、3区の有権者が千人に一人の割合で棄権せずに民主党候補に投じたならば、選挙結果は変わったのです。棄権の一票も含めて、文字どおり1票が投票結果を左右しうるのです。
実際、宮城県全体の投票率はほぼ前回並みでしたが、三区の白石市と角田市で前回と比べて7%も投票率が低下したのが目立ちました。選挙戦直前に立候補表明した32歳の無名の民主党候補は、「マニフェスト」を掲げた民主党への期待を集め、また民主党と旧自由党との合併効果によって、名取市・岩沼市・白石市では自民党候補を抑えています。確かに前回選挙時の民主党候補と自由党候補の合計票に比べて3区全体で1万票伸ばしています。逆に自民党候補は前職の得票から1万票減らしていますが、とりわけ目立つのは白石市で3千票、角田市で2千票も減らしたことです(表2)。大接戦を演出したのは、民主党側の合併効果・マニフェスト効果とともに、自民党側では、前職支持票が大量に棄権に回ったことでした。三塚代議士の後継候補として選出されたプロセスに対する批判が、大量の棄権となってあらわれたと見られます。選挙は1票の積み重ねであることをあらためて印象づけた大接戦でした。
このように考えてみると、棄権もまた重要な意味をもつ投票行動であることがわかります。選挙に関心がない、投票したい候補者がいないなど、棄権の動機はさまざまです。しかしいずれにせよ、棄権する者の意識とは独立に、接戦になるほど棄権が選挙結果を左右するともいえます。一般に投票率が下がるほど、組織票頼みの候補や現職候補が有利になります。投票率が上がれば、浮動票頼りの候補や新人候補が有利になります。
今日の選挙は、何よりも投票率との戦いであり、「無党派層」と呼ばれる、棄権に走りがちな浮気な有権者を自陣営にいかにつなぎとめるのかという見えざる有権者との戦いでもあります。私たち有権者の側も、1票の重みをかみしめて選挙に臨みたいものです。
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