フェロモン遺伝子!?
皆さんは、血液型による性格占いや相性診断を信じていますか?ABO式血液型は、私たちが学校で習うヒトの遺伝の代表的なものです。人間をこの血液型で分類すると、A型・B型・O型・AB型のいずれかになります。医療の現場では、血液型は輸血をするときに大変重要で、誤った血液を輸血されると生命に関わってきます。一方、世間ではこの血液型による性格判断や男女の相性占いが盛んに行われています。これに科学的な根拠があるかどうかは不明ですが、同じ血液型でも赤血球ではなく白血球の型は、男女の相性と関連があるらしいという研究結果が近年あいついで報告されています。
この白血球の型はHLA(Human Leukocyte Antigen)と呼ばれるもので、臓器移植や骨髄移植の際に問題となるものです。最初に行われたスイスの研究は男女学生を対象としたもので、男子学生に2日間着せたTシャツの匂いを女子学生に嗅がせて、好き嫌いの点数をつけるというものでした。その結果、女子学生は自分とはHLAの型が異なる男性の匂いを好む傾向が判明したのです。遺伝子は、どうやら私たちの気づかないところで、行動に影響を与えているようです。
お酒が強いか弱いかは
遺伝子で決まる
遺伝子の個人差と私たちの体質についても、すでに分子レベルでさまざまな事が明らかになってきています。その良い例が、酒に強い・弱いを決めるアルコール代謝経路に関わる遺伝子です。アルコール(エタノール)は体内に入ると毒物のアセトアルデヒドにかわります。このアセトアルデヒドをさらに分解する酵素(アセトアルデヒド脱水素酵素2)には、酵素活性が高い遺伝子タイプと低い遺伝子タイプの2種類が存在しています。この遺伝子の組み合わせによって、お酒が強くなったり弱くなったりということが決まります。ちなみに、お酒に強い遺伝子をもつ人の割合が日本一多いのは東北地方です。
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マルチプルカルボキシラーゼ欠損症の原因遺伝子(矢印)が21番染色体に存在することをFISH法によって証明した写真
(Suzuki Y et al., Nature Genetics)。 |
遺伝子解析の様子
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薬の効き目や副作用の出方には
遺伝子が関わっている
実は、病院で処方される薬についても、酒に強い弱いといった体質と同様、その代謝が早い人と遅い人が遺伝的に決まっていることが多いのです。薬の代謝が遅い人は、薬が効きすぎたり、強い副作用が出る原因となります。特に抗がん剤などでは、命に関わるような危険な場合もあります。そこで、薬を処方するまえに遺伝子を調べ、それぞれの人の体質に合った薬と服用量を選択しようという「オーダーメイド医療」が提唱されています。近い将来、薬の処方にあたってまず遺伝子検査をすることが当たり前になるかもしれません。
遺伝病は自分には
関係ない?
私の所属する遺伝病学教室では、遺伝子の異常が原因で健康に支障をきたすさまざまな病気の研究を行っています。遺伝子の個人差はともかく、「遺伝病」となるとほとんどの人は自分とは関係ないと考えているのではないでしょうか。しかしながら、健康な人を対象に遺伝子を調べてみると、私たちはすべて数種類以上の遺伝病の保因者であることがわかります。誰でも、自分の血縁者・子孫に遺伝病が発症する可能性があります。したがって、遺伝病というのは、その病気にかかっている人だけの問題ではなく、私たちみんなにかかわってくることなのです。むろん、自分や自分の家族が遺伝病であることがわかったときには、大きなショックを受けます。そこで、私たち大学附属病院の遺伝外来ではこのような場合をはじめとして遺伝カウンセリングを行っています。
遺伝子検査による
保険加入差別について
最近、遺伝性の病気ではあるものの、生後すぐに発見して発症する前に治療すればふつうの人とまったくおなじ生活を送れる人が、学資保険や生命保険の加入を拒否されていることが私たちなどの調査で判明し、大きな問題となっています。今後、研究が進むにつれ、糖尿病や高血圧、喘息などの原因となる遺伝子が解明されていくことでしょう。そのとき、遺伝子検査をして病気の予防に役立てようとすると、逆に保険に加入できないなどという困った事態が生じるのではないかとあやぶまれます。遺伝子検査の倫理的な問題について、わが国でも、そのルールづくりをしていく時期にきているようです。
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