私は東北大学歯学部を卒業して歯科医になりましたが、米国の政治学の大学院に留学し、ワシントンのシンクタンク、CSIS(戦略国際問題研究所)に十年勤務し、現在も東京財団というシンクタンクで外交・安全保障政策を中心に政策の研究と提言活動を行っています。シンクタンクの仕事は、政策提言を作るだけでなく、それを議員や政府に実行してもらうために、様々な手段で働きかけています。マスメディアを使って広く社会に国際情勢や政策の解説を行うこともその一つです。Think Tankは"Do" Tankでもあるのです。
そういう経歴の中で、東北大学OBの人材の面白さを実感することがあります。私は時々、TV朝日系の「朝まで生テレビ」という討論番組に出演しておりますが、一昨年、常連の出演者だった当時の共産党の小池晃政策委員長(医学部卒)が「渡部さん、東北大学だって?」とにこやかに声をかけてくれたことを思い出します。当時、我が東京財団では臓器移植法案の国会採決の前にその本質を国会議員に真剣に考えてもらうために、国会内で勉強会を開催したり、各議員には背景説明をしておりましたが、小池さんには東北大学のご縁もあって真剣に話を聞いてもらいました。
ワシントンのシンクタンク時代から、政策について意見交換をしてきたのが、菅直人政権時の枝野幸男官房長官(法学部卒)や桜井充財務副大臣(医学系大学院修了)です。また、自民党の森英介元法務大臣(工学部卒)や引退された防衛政策のプロである月原茂皓元国土交通副大臣(法学部卒)のお二人にも、東北大学のご縁でお会いしております。
東北大学出身の政治家には一つの共通する特徴があります。理論で勝負する政策派であるということです。我が東京財団は、党利党略を超えて、日本に必要な政策を超党派ベースで遂行するよう議員に働きかけておりますが、党派を超えてユニークな政策派議員を生み出してきたのが東北大学です。
また、私は歯科医療の現場からは離れていますが、自民党から民主党への政権交代で大きく変化している日本の政策過程の変化に際して、歯科医療界がどう対応すべきかについて提言活動を行っております。東北大学歯学部OBネットワークが私にそのような機会を与えてくれます。高校時代、担任の先生から、お前は歯学部に入ってもその後は歯医者の仕事をしないかもしれないから、医学部で学びながら文学者となった魯迅や北杜夫のような人材を輩出した東北大学が合っているのではないかと勧められました。今は、その先見の明に感謝しております。