授業をよくするための、やや個人的な3つの工夫
大学教育の潮流
山田 仁史=文
text by Hitoshi Yamada

 大学教員とは不思議なもので、教員免許もなければ、教授法を教わったわけでもない。かつて受けた自分の先生の授業を思い出したりしつつ、見よう見まねで教壇に立つにすぎない。こんなことを、以前どこかで読みました。自分の授業をかえりみると、確かにそうだなと感じます。とはいえ、何も工夫していないわけでもありません。たとえば……。

工夫1 グループ討論

 少人数の授業では、みんなで話し合う場面がよくあります。しかしこれには問題が…。みんな遠慮して口を開かなかったり、教員と一部の学生だけがしゃべり続けることになってしまったり。なかなか全員で実のある議論はしにくいものです。こんな時、グループ討論をへて全体討論に移行すると、スムーズに行く。いつしか、そのことに気づきました。いきなり全員の前で自分の意見を言うのは緊張するので、初め2人から4人ぐらいのグループ内で、和気藹々と思ったことを言い合う。そうして雰囲気がやわらいだ後で、教室内全体でのディスカッションに移ると、驚くほどたくさん意見が出てきます。私はこの方法を、「英語原書講読入門」や「宗教科教育法」で試みています。

工夫2 ミニットペーパー

 授業の最後に、学生に何かを書いてもらう紙のことを、こう呼ぶのだそうです。私の場合、人数の多い講義形式の授業の最後に、その日の講義内容について思ったことや質問・要望などを書いてもらっています。私には想像もつかなかったような、面白い感想や情報も多く、毎回読むのが楽しみになってきました。特に「神話学入門」の授業では、今どきの若者らしく、ゲームやマンガに出てくる神話キャラクターのことを、いろいろ書いてくれる人が多数。みんなこういうメディアから神話に接しているのか、と新鮮です。感想のいくつかはピックアップして、次の授業冒頭で紹介。「他の学生が意外なことを考えていて、参考になる」となかなか好評のようです。

工夫3 フィールドワーク

 私の専門は宗教学で、本を読むだけでなく、現場に出かけて生きた信仰の姿に接するのも重要な学問です。つまりフィールドワーク。これを授業に採り入れることで、単調さにアクセントが加わります。「人文社会序論」では、ふだんは『金枝篇』という宗教学の古典を通読・解説しますが、一日だけ神社の絵馬調査に出かけ、そこに書かれた祈願内容をくわしく調べます。準備と結果の分析もありますから、実際にはデスクワークとフィールドワークが並行する形で、半期の授業は進むわけです。これが一定の緊張感を生み出しています。
 大した工夫とは言えませんが、私自身はこんなことをしています。いちおう授業の改善に関心はあって、ときに関連する書籍を買って読んでみたりもするのです。でも、結局は先輩の先生方から受け継いだり、自ら工夫する部分が大ですね。昔、塾講師のバイト時代につちかった技術が、それなりに生きている気もします。とはいえ今後はもう少し、ささやかな経験知を同僚と共有する機会が増えるといいのでしょう。

絵馬に記された祈願の内容をデータ化して入力する学生たち
絵馬に記された祈願の内容をデータ化して入力する学生たち。
「人文社会序論」におけるフィールドワークの風景。


山田 仁史 やまだ ひとし
1972年生まれ
東北大学大学院文学研究科 准教授
専門:宗教民族学、神話学
http://www.sal.tohoku.ac.jp/religion/


ページの先頭へ戻る

前頁へ 目次へ 次頁へ