佐藤 源之=文
text by Motoyuki Sato

人道的地雷除去とは
 本物の地雷を見たことはなくても、皆さんはテレビなどで地雷の被害をご存知だと思います。子供や農民を傷つけている対人地雷の多くは直径10cm、厚さ4cm程度の小さな平たい円筒形ですが、蝶々のような形の物もあります。1個僅か数百円なので、あちこちの国の軍隊が敵の進攻を防ぐ武器として大量に使用しました。
 この結果、アフガニスタン、カンボジア、旧ユーゴスラビア、アフリカ諸国など内戦の激しかった国々では、紛争終了後も地中に放置された地雷により住民が大変な被害を受けることになりました。全世界では未だ1億個以上が残されており、懸命な除去作業の結果、被災者は減少する傾向にあるものの、年間1万人程度が世界中で死傷していると推定されています。
住民が安心して暮らせるように地雷を捜して取り除く作業は人道的地雷除去と呼ばれ、わが国も国際的な援助を行っています。現在は地雷を検知するために金属探知器が使われています。
 地雷除去作業員は金属探知器を手動で地表面すれすれに動かし、金属探知器の反応信号音を聴きながら、地中の金属片の位置を検知します。内戦が行われた土地では弾丸など大量の金属破片が散乱しているため、金属探知器には非常に多くの反応があります。地雷除去作業現場では平均して金属反応の1000個に1個程度しか地雷はないと言われていますが、それらを1つずつ手で掘り確認する必要があります。こうした気の遠くなるような作業を科学技術で効率化したいというのが私たちの研究の発端です。


地雷検知センサALISの開発

 私たちは金属探知器とGPR(地中レーダ)を組み合わせたALIS(Advanced Landmine Imaging System)を開発しています。ALISは作業員が手で持ち操作する小型の地雷検知センサです。
 金属探知器は地下に埋もれた金属の有無を知らせるセンサですが、GPRは対人地雷のプラスティック容器の形状を電波の反射を利用して画像化するので、金属探知器の反応が地雷かそれ以外の金属片によるものかの判断を掘削せずに行えます。従って金属探知器だけを使うのに比べて格段に作業効率をあげることができます。
 ALISの操作員は、装置本体とパソコンを背中のリュクサックに収納し、データを記録しています。センサを地表面上で走査するとセンサ信号がリアルタイムで小型ディスプレイに画像表示されるので、操作員はそれを確認しながら地雷の位置を知ることができます。従来の金属探知器では慎重に作業をしても走査し残した空白域ができると地雷を見落とす危険性がありました。ALISはセンサ信号の画像化により事故防止にも有効です。
 ALISによって画像化された金属探知器とGPRの地雷検知画面には埋設地雷が明瞭に現れています。金属探知器は差動式センサなので∞(横八の字)の形をした信号画像の中心に金属が位置しています。音だけを頼りにしていた検知作業に比べ画像化により信頼性が向上しました。さらに、GPR画面では地雷の丸い形を直接確認でき3次元の地中構造を判断できるので、地雷が存在すればその深度までわかります。
 ALIS用に私たちは非常に広い周波数帯域で動作するビバルディ型アンテナと携帯型高周波測定装置(ネットワークアナライザ)を開発しました。また、測定した信号を画像化しただけでは地表面の凹凸で生じる乱雑な反射波により地雷からの反射波を見ることはできないので、さらにリアルタイムで動作する合成開口(SAR)信号処理アルゴリズムを開発しました。SARアルゴリズムは宇宙から地球を観測するリモートセンシングに従来から広く利用されていますが、地雷検知用に改良を加えました。


アフガニスタンでの評価実験
  研究室で開発した技術をいかに実際の現場で利用してもらうかは地雷検知において非常に重要な課題です。ODA(政府開発援助)などで支援される機器が地雷被災国への押しつけでなく本当に地雷除去活動に役に立ち、また作業員に受け入れられるためには、現地での評価実験が不可欠です。
 私たちは日本の外務省の援助を受け、2004年12月アフガニスタンで地雷除去作業にあたる現地NGOにALISを評価していただくための実験を行いました。
 最初の実験はアフガニスタンに多く残存する対人地雷Type72とPMN‐2を各種の土壌条件のもと異なる深度に埋設したテストサイトで行われました。埋設したのは模擬地雷だけでなく雷管を取り除き爆発しないようにした実物の地雷も含まれています。
 この実験では金属探知器による地雷検知は深度15cm程度が限界なのに対し、GPRは20cm程度まで検知できる場合のあることが分かりました。またALISによる金属片と地雷の識別が可能なことも実証できました。
 次に埋設物の種類や位置を知らされずに実際の地雷検知作業に近い条件で実験が行われました。これはブラインドテストと呼ばれ、センサが本当に地雷除去に役立つかどうかを見極める重要な試験です。金属片と地雷に対するALISの応答は明らかに異なるので、両者の識別は十分実用的であることを地雷除去作業員にも理解していただけました。
 最後に、私たちは現地NGOが地雷除去作業を進めているBibi Mahro Hillで実環境におけるALISの動作を確認しました。ここはカブール市街地とカブール空港を見下ろす小高い丘であり、1980年代に旧ソ連軍がミサイル基地を設営しました。地表面は、まばらな草に覆われ、土壌には砂利、木片、金属片が多数含まれています。
 地雷は基地への侵入者を防ぐために列状に埋設されましたが、20年が経過し、ほとんどの地雷は雨などにより土砂と共に移動し、地雷が地表の雑草の中に落ちているのが目で見えるほど、ばらばらに散らばっています。地雷除去が終わった区域と未処理の区域は白と赤に塗られた玉石によって区切られます。
 私たちが実験をしている間に、地元の少年が犬を追いかけて地雷除去作業区域に入ってきました。作業員が大声をあげて注意を促すと、少年は何事もなく区域外に出て行きましたが、住宅地域に隣接した地雷原の危険性を改めて強く感じさせる光景でした。


今後の展望
 ALISはアフガニスタンの評価実験に続き、地雷検知器の国際評価機関によるテストのためイタリア、スエーデン、オランダでのデモンストレーション実験、地雷被災国であるエジプト、更に内戦による地雷に苦しんでいるクロアチアでは2006年2月に1ヶ月にわたる実証実験が行われました。これらの実験では国連地雷除去機関の技術スタッフ、現地地雷除去作業員などにALISの操作を説明し、実際の地雷除去現場で使用するために必要な改良点などについて多くのアドバイスを受けました。私たちはALISを近い将来実際に地雷除去活動に使っていただくことをめざし改良を続けています。
 地雷検知は地下を掘らずに可視化することができる地下計測技術の応用例です。都市部でのガス・水道管、通信・電力ケーブルなどライフラインの保全管理、土壌汚染、地下水などの環境問題などの分野で地下計測技術が社会貢献できる機会は今後増えていくと予想しています。ALIS開発で培われた高度な技術を、より多くの人々に役立てていくことが私たちの次の目標です。


さとう もとゆき

1957年生まれ
現職:東北大学東北アジア研究センター 教授
専門:電波応用計測学、環境計測学
関連ホームページ:
http://www.cneas.tohoku.ac.jp/
staff/msato/msato.htm


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