IT社会を支える情報ストレージ技術 | |
中村
慶久=文
text by Yoshihisa Nakamura |
情報ストレージ(蓄積)技術は、私たちの身近な情報だけでなく、国の機密事項から文化・芸術・科学などのあらゆる分野の貴重なデータを蓄えるための技術です。ここからネットワークを通じて世界に発信される情報量の多さと内容の豊かさは、発信する人や国の文化度や信頼度を示すと云っても過言ではありません。これからのIT社会で、情報ストレージ技術はますます重要な役割を果たします。 カリフォルニア大学バークレー校で、世界中で2002年に新たに創られた情報量を調べたら5エクサバイト(記録容量50ギガバイトのHDDで1億台分)あり、その50%は磁気テープに、40%はHDDに保存されている、とのことです。HDDへの保存量は1999年の2倍以上です。 情報量の急激な増加とともに、これを蓄積保存する容れ物が問題になり、場所を取らずに大量に入ることが常に宿命的に求められています。情報ストレージ・メディアには、HDDだけでなく、磁気テープや光ディスク、フラッシュ・メモリなどがありますが、記録容量やビット当たりの単価、書き込み速度、体積当たりの記録密度などで、HDDがストレージ・メディアの要件を最も満たしています。
私たちは以前から、HDDの情報蓄積密度を本学で生まれた垂直磁化方式で高める研究を進めてきました。 原理は簡単ですが、実用化は現用の技術を越えた性能で求められますので、信頼性や量産技術、価格にまで配慮した多くの工夫とそれを実現する時間が必要です。私たちは産と官のご協力を頂いて、2004年10月に、通称マイクロドライブと呼ばれる約25ミリ径ディスク(500円玉の大きさ)に、垂直磁化方式で4ギガバイト(DVD1枚弱)の情報が書き込めるHDDを、世界で初めて試作しました(図2a)。実力は七ギガバイトありますが、今回は市販の長手磁化方式と同じ4ギガに抑えてあります。私たちは2005年3月末を目途に、これを10ギガバイトにまで上げる予定です。
このような成果は、2002年に文部科学省が始めた「世界最先端IT国家実現重点研究開発プロジェクト」のお陰です。この中で、私たちは「超小型大容量ハードディスクの開発」を受け持ち、電気通信研究所21世紀情報通信研究開発センター(IT二一センター)で、1平方ミリに200メガバイト(市販HDDの10倍以上)を書き込める記録密度をめざして、国内の主要なHDDメーカや関連企業と一緒に研究開発を進めて来ました。これができますと記録容量が飛躍的に上がり、マイクロドライブに70ギガバイトも入ります。新聞230年分、文庫本11万冊分です。そんなに容量を上げてどうするのか、という声もありますが、映像を入れはじめると際限ありません。これでもDVD並の映像で15時間、ハイビジョン映像で六時間分です。 現在、磁気ディスクは真空スパッタ装置で、言わば神様まかせでつくられています。1平方ミリに200ギガバイト書き込めると、1ビットの微細磁石の大きさは、例えば厚さ10ナノ(nm)、長さ10nm、幅65nmです。この磁石の1つ1つは、長さ10nm、直径5〜10nmの円柱状磁性微粒子を縦に6〜12個びっしり並べたものになります。粒径は小さ過ぎると磁性を失いますので、この程度が限界です。磁性粒の位置、寸法、磁性がばらついていても高密度化を著しく妨げますので、これらを揃えることも必須の条件です。
日本のHDDの開発は長い間米国の後を追いかけてきました。2004年11月現在、主流の約90ミリ径HDDでの日本製の世界占有率は、かなり米国の後塵を拝しています。モバイル型と呼ばれ65ミリ径以下もので、2002年までは日本製が市場を占有していましたが、2003年後半から米国と中国の企業が参入し、やがては戦場になりかねません。この優位性をどこまで保てるかが、日本のHDD業界の大きな課題です。 |
1940年生まれ |