地震防災対策の最前線
 〜リアルタイム地震情報の利活用
源栄 正人=文
text by Motosaka Masato

はじめに

 宮城県域は、切迫する宮城県沖地震に備えて如何に対策を施し、その効果がどうであったかが遠からず試される地域であり、安心で安全な生活を営むことができる地域社会をつくる必要があります。ここでは、迫り来る宮城県沖地震に備える防災対策の最前線として緊急地震速報(リアルタイム地震情報)の利活用の例として、仙台市立長町小学校に導入されたリアルタイム地震情報と連動させた防災教育/訓練支援システムを紹介します。

地震の直前検知のしくみ

 大揺れが来る直前に警報をならし、安全確保の体制をとることが可能になりました。日本全国に網羅された国の地震観測網(気象庁、防災科学研究所、大学)により、震源地に近い地震計でP波(縦波)を捉えると、気象庁で震源の位置と地震の規模(マグニチュード)が直ちに決定されます。この情報が通信衛星を経由して受信装置に送られると、受信装置の設置地点の予測震度と主要動到達までの時間がカウントダウン画面として表示されます(図1参照)。いわゆる、地震の直前検知であり、JR東北新幹線の自動停止システム(ユレダス)も原理的には同じです。
 最新の地震情報に関する利用研究では、次の宮城県沖地震の際には仙台と古川では、主要動の到達より約15秒前、石巻では約八秒前、白石では26秒前に地震情報を伝えることが技術的に可能であることが分かってきております。

小学校へのシステム導入
〜全国ではじめて


図1 リアルタイム地震情報伝達システムのしくみ

写真1 リアルタイム地震情報を用いた
長町小学校での避難訓練(NHKの放映画像より)
 私たちは、リアルタイム地震情報の学校における活用は地震時の避難による安全確保ばかりでなく、防災教育の面でも利用価値が極めて高いと判断し、「学童および学校職員のためのリアルタイム地震情報を用いた防災教育/訓練支援システム」の研究開発を行ってきました。2004年2月に全国ではじめて仙台市立長町小学校に導入し、4月には、このシステムを用いた避難訓練を15秒後に大揺れが来ることを想定して実施しました。児童全員が机の下にもぐった状態で、数秒後に主要動が到達しました。この避難訓練ついては放送・新聞などで全国的に報道され、児童は心理的な余裕、教師は避難誘導の面で効果を指摘していました。
 このシステムは予測震度が一定震度以下であれば訓練モード、一定以上であれば避難モードで作動し、児童・生徒に対する指示は音声とコンピュータ画面に出力されます。音声を校内放送に接続すれば、全校生徒を対象とした避難訓練や避難指示が可能となります。
 訓練モードには、任意の震度や余裕時間を設定して行うものと、実際に起こった小さな地震で避難訓練を行うものがあります。後者ではシステムが発する避難指示の後で、実際に揺れを感じることができるので、より実践的な訓練となります。
 本システムの特長は、地震の主要動が到達する前に「地震の震度と主要動が何秒後に来るか」を知ることができ、多くの児童・生徒が主要同到達前に緊急避難(机の下にもぐる等)を終えることができることです(写真1)。また、教育モードがあり、過去に起こった地震の被害写真や、地震時の教室の様子を動画化して機能を有します。

今後の展開

 現在、青葉山の筆者の研究室にも同じシステムが設置されており、学内LANと緊急放送に接続することにより、全学への配信・伝達も可能であり、出火の危険性のある実験室などでは直前対応も可能となります。地震が来る前にどのように情報を伝達し、何ができるかなども地域ぐるみで考える時期に来ており、病院や工場など多くの分野への適用を図りたいと思っております。一般の家庭への活用も近い将来実現するでしょう。

もとさかまさと

1952年生まれ
現職:東北大学大学院工学研究科附属
   災害制御研究センター 教授
専門:地震工学


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