ヨーロッパ文学のうち明治以前に日本に翻訳・紹介されたものは、イソップ物語とロビンソン・クルーソーでした。
ロビンソン・クルーソーは、1719年にイギリスで出版されると、たちまち世界的なベストセラーになりました。日本にも長崎出島のオランダ商館員によって持ち込まれ、嘉永3年に膳所藩の蘭学者・黒田行元が『漂荒紀事』(ひょうこうきじ)という抄訳を作ります。ただしこれは写本の形で流布したため、江戸時代に出版された最初のロビンソンは国学者・横山保三による安政四年の『魯敏遜漂行紀略』(ろびんそんひょうこうきりゃく)でした。文章は和文調で、読みやすく、洋学者・箕作阮甫が序文でこれを絶賛しました。口絵は蕃書調所の絵画掛であった川上冬崖が描いています。
幕末には開国の気運とともに多数の漂流ものが読まれ、その中でもロビンソンの物語は特に人気を博しました。当時の日本人は、漂着した大海の孤島で屈することなく新天地を開こうとする彼の物語を、人生の上で実行すべきものと受け取ったのかもしれません。『魯敏遜漂行紀略』は本館狩野文庫に収められています。
(東北大学附属図書館)
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