メダカはどこに行った?
−水環境の復元に向けて−

山田 一裕=文
text by Kazuhiro Yamada



日本の原風景を伝える童謡唱歌
 春の小川はさらさらいくよ
   エビやメダカや小ブナの群れに
        【春の小川】(2番)

 私たちが子供の頃に歌った童謡は戦前・戦後に作られ、自然が十分残っていた日本の原風景を表していると言えます。
 約200曲の童謡・唱歌を調べてみますと、約百種の動植物が230数回登場しています。また、水辺の身近な生き物である、メダカやコイ、トンボ、ホタル、ヤナギなどが多く登場しています。
 一方、宮城県内の小学校で保護者(130名)にアンケート調査をしたところ、「どんな生き物がいればきれいな水辺だと思いますか」との問いに、メダカが一位で、ホタル、フナと続きました。
 しかし、メダカは、環境庁のレッドデータブックに絶滅のおそれのある種として1999年2月に記載されました。一体、メダカはどこに行ったのでしょうか?


歌の中にしかない自然!?
 メダカは、田んぼや農業用水路など流れが速くない場所で育ちます。しかも、メダカ(ニホンメダカ)の学名、のとはラテン語で稲を意味する(オリザ)に由来しています。
 しかし、戦後の急速な経済成長に伴い、田んぼは生産性を上げるために農薬や肥料がたくさん投入されました。
 メダカにとって育ちやすい流れの緩やかな所に、肥料成分(窒素やリンなど)や有機物が入ってくれば、水は腐りやすくなり、メダカは酸欠で死んでしまいます。農薬や洗剤などの化学薬品も危険です。
 また、治水・利水のため、農業用水路のパイプライン化や、河川のコンクリート護岸化などの改修工事が進み、水の流れが速くなる一方、水量が断続的に変化するようになりました。そのため、卵を産みつける水草がなくなり、稚魚が育つ隠れ家もなくなり、メダカの生息環境は失われてしまったのです。

生態系の機能を活用した水環境の復元
 水の汚れの主な原因である有機物や窒素・リンは、生物にとっては栄養です。例えば、水生植物のヨシは窒素やリンをよく吸収してくれます。ヨシの根の部分では、微生物が活発に有機物を分解してくれます。
 しかし、汚れの度合いが過ぎると、生物の機能も麻痺してしまいます。つまり、現在の大量生産・大量消費を考えれば、かつての原風景を復元するだけでは、水環境の悪化を防ぐことはできません。
 多種多様な生物が生息できる環境条件と生態系を確保するには、魚が住みやすい護岸を整備したり、瀬や淵のような人工的に川の流れを制御できる技術があれば、生物資源を得ながら効果的に水の浄化が実現できることになります。しかも、生物は化石燃料ではなく太陽エネルギーを用いているので、生物との共生ができる水環境の復元と、持続ある利用が可能となります。
 このような観点から、日本の新しい原風景として歌われるような水環境のトータルデザインを提案したいと考えています。






やまだ かずひろ
1964年生まれ
現職:東北大学大学院
工学研究科講師
専門:生態工学、環境教育